ぷれす通信

communication

読んだら書きたくなりました vol.131

『ママはかいぞく』

カリーヌ・シュリュグ文/レミ・サイヤール絵 光文社

タイトルと表紙から、ママと息子の冒険のお話なのかな?と思って読み始めたら、見事に裏切られました。海賊船に乗って冒険の旅にでるのはママだけ、ぼくとパパは家で帰りを待っています。ママのからだは傷だらけで、海賊でいるのはとんでもなく疲れるみたい……。帯に「このえほんには、もうひとつのおはなしがかくれています。」とあるので、大人の中には途中でこの絵本の仕掛けに気づく方もいるかもしれませんが、子どもはきっと勇敢なママの冒険に心躍らせるでしょう。そうして、その子が大人になって読み返してみたとき、仕掛けに気づいて驚くのです。この絵本は作者の実体験をもとに描かれているのですが、子どもには理解しにくい出来事をどう説明するかの最高に素敵な答えのひとつだと思います。ユーモアにあふれているし、子どもの不安にきちんと向き合っている、なによりも「ママは闘っているのよ!」とポジティブなメッセージが常に感じられるのです。最後にママは海賊船を降りますが、ラストシーンの海の向こうには海賊船が浮かんでいます。きっと、別のママが海賊となって仲間たちと一緒に闘っているんだろうな……。(いく)

Amazonの紹介ページ

『「なぜ?」から始める現代アート』

長谷川祐子 NHK出版新書

近年国内での展示会が人気を博した草間彌生、レアンドロ・エルリッヒ、私の好きなオラファー・エリアソン、ソフィ・カルなど。アートの中でも特に現代アートと称される作品、そしてその作品を生み出すアーティストについて紹介し、生きるうえでのアートの役割など、アートがいかに私たちに恩恵をもたらしているかを説明しているのが本書です。その明快さとともに、長年キュレーターとしてアートの価値を信じ、世界に向けてその魅力を発信しつづけてきた著者の思いの深さに読んでいていたく感銘を受けました。私たちのそばで起き、誰もが目にすることができる現象をどんな視点で見るか、出会うか。アートは実は世界に満ち満ちており、作品としてのアートはある意味、それに自分や他者を気づかせるために存在しているのかもしれません。自分ならではの視点であらゆる物事に関係を見出し、つなぎ合わせる営みが本来のアートなのではないか。これが本書を読み終えた今の私のアートについての答えです。果たして今後その答えにどんな疑念が湧き、答えが改められるか。楽しみですね。(てつ)

Amazonの紹介ページ