ぷれす通信

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読んだら書きたくなりました vol.130

『この街でわたしたちは』

加藤千恵 幻冬舎文庫

ときどき恋愛小説が無性に読みたくなって、「でも次の日には消えてしまうだろうな、この気分」なんて感じで恋愛小説ロスをしている人に薦めたいのが本書。ウェブ新聞の連載や雑誌掲載を再構成した文庫オリジナルの短編集。東京23区のレストランなど、食べ物や飲み物が舞台装置として盛り上げてくれます。友達から恋人に変わる瞬間や、友達が友達のままで終わるなど、ちょっと胸の奥がこそばゆくなってしまうような話が適度なサイズ感で描かれていて(240ページ、27篇)、オイシイ場面を切り取るという、短編のウマミ溢れる一冊です。話の終わりに添えられる短歌がまた話に余韻を与えるのです。ところで、ガレットの目玉焼きを先に食べるか、後にとっておくか、どっちのタイプですか? 私は後です。それで「あー、そういうことだったのかぁ……」と思ってしまいました。答えは(作品「豊島区」にあります)読んで確かめてくださいね。(かつ)

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『大切な人の命の終わりにどうかかわるか ただ、寄り添う。』

玉置妙憂 主婦の友インフォス

本書は看護師、僧侶として、得てして忌避される死と公私にわたって真摯に向き合ってきた著者が、自身のエピソードを交え、看取るうえでの自分の在り方について綴っています。死を「着地」とフラットに表現しているのが印象的で、その不穏なイメージを払拭させようとする姿勢が随所に見受けられます。病院で亡くなったときにいろいろなものが体外に出るのを防ぐために施される詰めものが、別の見方をすれば自分で自分の体の後始末をして亡くなることを妨げることにもなるのだと知りハッとさせられました。何をもって自然な死に方なのか、自然な死に方がいいのかわるいのか。そんな現実的で倫理的な問題を呈示し、自他の生き方、死に方について再考させてくれるのが本書。読んでいて感銘を受けました。「生きているすべての人が余命宣告を受けている ただそれをはっきりと告げられているかどうか 違いは、それだけ」など、後半にある詩にもまた心洗われます。(くろ)

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