ぷれす通信

communication

読んだら書きたくなりました vol.126

『何があってもおかしくない』

エリザベス・ストラウト 小川高義訳 早川書房

本書は苦しい思いから逃れようと故郷を離れた者、離れずにいる者の生活を描いた連作短編集です。貧困、虐待、離婚、戦争体験、不倫……。表立って言わなくても人は何かしら苦悩を抱えているもの。大丈夫そうに見える人々の大丈夫じゃない瞬間を捉え、彼らがその際に感じるもやもやした思いをそのまま表そうとする著者の文章には、彼らを単なる物語の道具として扱わず、彼らのために思いを代弁し、心を浄化してあげている印象を受けます。個々人が予期しない出来事に遭遇して傷つけられたり救われたりする場面を淡々と描き、その出来事が起こるある意味の妥当さ、偶然の必然性を矛盾なく示す物語の数々。それらを一作一作と読み進めるたび、理不尽と奇跡、あるいは平凡と非凡の区別の曖昧さについて考えさせられます。把握や理解をできることばかりではない、「何があってもおかしくない」人生をもがきながら、何とか折り合いをつけていく人の営みの尊さを優しく語りかけてくるような内容に目頭が熱くなりました。人生って、悪くないですね。(かつ)

Amazonの紹介ページ

『似ていることば』

おかべたかし・文、やまでたかし・写真 東京書籍

「あふれる」と「こぼれる」。この言葉の違いをみなさんはわかりますか? 本書は同音異義語や同訓異義語と、形が似ているものから38組を抜粋、その違いについて言葉と写真によって解説しています。上記であげた1組は「容量が一杯になったときは『あふれる』」、「容量に関係がないときは『こぼれる』」で、写真では前者がコップに上から水滴がぽたぽたと落ち、水面が高くなって許容量を超え水が外に出る様子、後者は水の入ったコップが傾いて今にも水が出ようとしている様子を撮影したものを掲載しています。いずれもその平易な文章と一目瞭然の写真の見事な組み合わせで、一般的な国語辞典や類語辞典よりも一気に理解できるような感覚があります。「あふれる」と「こぼれる」の基準から派生して感情が高ぶり気持ちが満ちたときの涙は「あふれる」が適し、またボールがグローブから外に出ることを「こぼれる」という、と関連付けてくれる親切さもありがたい。新しい気付きです。残り37組はみなさんが読んでからのお楽しみということで。大人だけでなく子どもも満足できること請け合いですよ。(くろ)

Amazonの紹介ページ