読んだら書きたくなりました vol.101
『渋沢栄一 「日本近代資本主義の父」の生涯』
今井博昭 幻冬舎
渋沢栄一といえば「日本近代資本主義の父」と呼ばれ、その経営哲学や鉄道の敷設、日本初の銀行を創設といったことなどが有名だと思います。本書では実業家になるまでの渋沢の人生が綴られているのですが、これが想像以上に異色でした。なにせ農家の出身でありながら尊王攘夷に燃え、仲間や武器を集め倒幕計画を実行する寸前までいったにもかかわらず、一転、一橋家の家臣となり、江戸幕府最後の将軍となった徳川慶喜に仕えたというのですから。これだけで振れ幅が大きすぎます。しかし、そのような転換はあったものの、尊王攘夷の意志が「国のために」という思いから生まれたものであることを考えると、渋沢栄一という人はその初志を貫徹したともいえるのではないでしょうか。実業家になってからも自分個人の利益ではなく、常に「公益」を念頭に置いていたというのが、それを表していると思いました。新紙幣の顔になるということで改めて注目されている渋沢栄一について、この本はより深い理解をもたらしてくれるのではないでしょうか。(いく)
『愛する意味』
上田紀行 光文社
愛する意味って何? と問われてスラスラと答えられる人は、本書を読む必要はないのかもしれません。しかし多くの人は答えに窮するのではないでしょうか。著者は文化人類学者で医学博士。幼いころに父親が出奔。母親との確執を抱えながらも独り立ちできない苛立ちに懊悩、社会に出て伴侶を見つけるも離婚。そんな自らの愛のつまずきをもとに、現代の愛の状況について問いただす一冊です。時代の流れもあり、メディアの提供する情報で相手を見つけるこの頃。愛が製品化し人間がロボット化していることに危機感を覚え、愛を根源的に考え直し、文字通り愛する意味について様々な角度から検証します。本書を読んでいくつもの発見がありましたが、個人的にはっとしたのは「自分を書き換えるレッスン」で、相手の役割や行為を理由に好きを見出すのではなく、まず相手を全面的に無条件に受け入れ、その上で部分的に気になるところに申し立てをしていくという方法。そうですよね、そうすれば役割や行為に失望して相手を失うことがなくなります。このように愛にまつわる内容の本ですが、結果的に「自分」と向き合う本でもあります。老いも若きも、独身も既婚者も不倫している人も読者ターゲットとしているので、やっぱり気になる「愛する意味」、本書であれこれと考えてみるとよいと思います。(くろ)