ぷれす通信

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読んだら書きたくなりました vol.88

『夢と気づくには遅すぎた。』

堀 真潮  キノブックス

十数ページくらいの長さのストーリーが、「美」「呪縛」「職場」「恋愛」「自身」といったテーマごとに繰り広げられます。現実からすっとそれて、異世界を生きる主人公の様子をのぞき見るわけですが、リアリティ(現実味)を逸脱することがないため、各話における感情のうごめき、ユーモア、悲しみ、恐怖といったものを、ちゃんと読み手に残します。タイトルにある通り、「夢」をみていたのか……というような、ひどく個人的な揺さぶりです。使いすぎを禁じられながらも、いい匂いのハンドクリームを塗りすぎてドタバタする「手に潤いを」。本命を落とせるバレンタインのチョコが作れる会員制の教室の秘密に迫る「ショコラに願いを」。暖房が壊れたがゆえに、謎の石で部屋を暖める「夏の石」など、この季節にちょうどよい話も。カバーは可愛らしくもミステリアス、部屋に飾るのもよいですね。全18編、友達やパートナーと読み合って、どの作品が好きかなんて盛り上がるのも楽しそうです。(もん)

『小川未明童話集』

小川未明 新潮文庫

忙しくて読書どころではない……という方にあえてオススメしたい1冊です。電車の中や、休憩時間、帰宅後のひと時に、1編や2編とすぐに読めること。難しいことなしに小川未明の語り口にそって想像の世界に入っていけること。児童文学ということもあり、昔に読んだことを思い出すこともあること。業や因果や運命や報いなど様々なテーマの物語を、ありのまま、意味や答えなんてことを考えず、ただ体験してください。日々蓄積した心のわだかまりが、なんだかほどけていくのを感じられるはずです。凛とした月が子をなくしたあざらしとの約束を果たす「月とあざらし」、病の床に臥せた孫娘のために鯉を買おうとしたところでハプニングが起こる「千代紙の春」、助けを求めに来た旅の者に対する仕打ちに後悔する「二度と通らない旅人」など、どのタイトルも胸に響くこと請け合いです。(まち)