読んだら書きたくなりました vol.51
『珈琲が呼ぶ』
片岡義男 光文社
片岡義男さんはコーヒーに一家言ある作家で、雑誌のコーヒー特集などでお見かけすることもしばしば。だから、帯にあるとおり「なぜ今まで片岡義男の珈琲エッセイ本がなかったのか?」というキャッチには納得です。ご本人が通った喫茶店のことや、映画、音楽、小説など、コーヒーを軸にさまざまな思い出や思い入れ、批評などが繰り広げられます。店の様子やレコードジャケットや劇中のワンカットなどの写真もあり、まさにコーヒーを飲みながら楽しめる本です。頭から読む必要はないので、気になったタイトルから読んでいくのもいいですね。個人的には、早稲田通りにあった「名曲喫茶らんぶる」を扱った『「よくかき混ぜて」と、店主は言った』が気に入りました。私は入店したことはないものの、営業していたころから、やがて廃墟のようになり、ついに解体される様子を目にしていたので、どうせなら一度そのコーヒーを飲んでおくべきだったと後悔。ほかにも「コーヒーでいい」と「コーヒーがいい」の一語による違いについての考察(『「コーヒーでいいや」と言う人がいる』)や、コーヒーをもとに主観と客観について哲学する(『喫茶店のコーヒーについて語るとき、大事なのは椅子だ』)など、内容は多岐にわたり、単なるコーヒーまわりの話で終わらないところにこの本の深みがあります。さあ、珈琲(コーヒー)が呼んでいますよ。(かつ)
『大原千鶴の和食』
大原千鶴 高橋書店
京都の料理研究家、大原千鶴さんの家庭で作る和食本です。和食といっても、ハンバーグや鶏むね肉のソテーなんかの洋風レシピもあって、日本の家庭料理といったおもむき。なんといっても嬉しいのは、レシピや材料がシンプルなところ。たまに、材料そろえるだけで疲れちゃうよー、という料理本あるじゃないですか。料理好きさんや上級者さんなら問題ないでしょうけれど、切って煮るか焼くというあっさりした料理をしている私なんかは見ただけで即時撤退です。これぐらいシンプルだと、冷蔵庫の中にあるものでパパッとつくれてしまえそう、それなのに手抜き感なく、むしろ凝った料理に見えるのだから不思議です。春夏秋冬を楽しめる日常のレシピから、おせちやおはぎなどの行事食も掲載され、1冊あれば一年中役立ちます。忙しい方や和食初心者さんに特におすすめの料理本です。(くろ)