2014年6月号
デッドゾーン 品質保証という役割
校正の仕事は、「間違い探し」と言われます。しかし、原稿との引き合わせ校正よりも素読み校正の件数が圧倒的に多くなっている現在の校正事情の下では、単に間違い=誤植を探し出すことだけではない、別種の役割が校正者に求められるようになってきています。すなわち、「品質保証」としての校正です。
雑誌、書籍、Webなどのメディアが恐れるのは、そこに並んだ言葉や表現の瑕疵によって読者からの信頼を失ってしまうことです。そのようなことを防ぐためにも、校正者の目を通すことで誌紙面を構成する言葉や表現に間違いの有無を確認し、メディアの品質を保つ必要があるというわけです。だからこそ、事実関係のチェックを行ったり、表記の統一表を作ってみたり、内容に踏み込んだ指摘をしたり……と、編集者をサポートするような仕事が次々と舞い込むようになってきたのだと思います。おそらく、この傾向はこれからますます強まっていくでしょう。
近ごろは、食品の表示基準や薬事法など、表現方法に厳しい規制がかけられたかと思えば、逆に表現規制が緩和されるなど、基準の改定が頻繁に行われるようになってきました(例えば、今年度中に食品の「機能性表示」が、条件付きながら企業側の判断でできるようになる予定など)。関連する記事の品質保証のため、校正者に各種基準に則った対応がリクエストされることも増えてきそうです。
もちろん、校正で行うことの“限界”はありますし、第一義的には著者・編集者サイドがきちんと確認すべき事柄です。しかし、校正者もメディアの制作に協働であたる立場。傍観者ではありえません。
どのような表現が食品表示基準や薬事法などの諸規制にひっかかりやすいのか、言葉や表現にかかわるニュースには日ごろから関心をもっておきましょう。(ゆ)
この一冊!『日本史B用語集 改訂版』
『日本史B用語集 改訂版』
全国歴史教育研究協議会 編
山川出版社/495ページ
ISBN-10: 4634013029
ISBN-13: 978-4634013025
価格 819円(税別)
書店の学参コーナーに行くと、校正実務に使えそうな本をいくつも見かけますが、これなどはその最右翼でしょう。
本書は「すべての高校日本史教科書にもられている歴史用語を収載し、各用語に簡明な解説を記した」(同書まえがき)もので、時代区分によって構成し、関連用語をまとめている点が特徴です。例えば「文禄の役」を調べると、「名護屋」「李舜臣」「亀甲船」「義兵」「梅北国兼」と関連項目が続き、「慶長の役」へとつながります。見開きないし前後のページをめくるだけで、探している他の用語も拾えたりするので、調べに費やす時間の節約になります。
解説文は2~3行からせいぜい10行程度なので当然辞典ほど詳しくはありませんが、逆に、辞典の文字量がしんどい、難しくてよくわからん、という人には重宝です。労せず手っ取り早く歴史用語を調べたいときなど、いかんなく実力を発揮します。
収載語数は解説付きが約6900、読みだけを示したものが約4900で、合計約1万1800。同じ山川出版社から出ている『日本史小辞典』が約9100なので、語彙数だけを見ればかなりの多さでしょう。なかには「草戸千軒町」「兵庫北関入船納帳」「螺鈿紫檀五絃琵琶」などといった、こんなことまで学校で教えているのかよと、疑いたくなるような聞き慣れない言葉まで載っています(しかも解説付き)。たかが学参と侮れない情報量です。すべての用語は巻末の80ページ以上にわたる充実した索引からも探せます。
歴史書で定評のある出版社が1966年の初版刊行以来、半世紀近く版を重ねてきたものなので、熟成度・信頼度はかなりのレベルと言えるでしょう。現在の版は2008年度からの高校教科書に合わせた改訂版です。四六版なのでかさばらず、そして819円という学割価格(?)も嬉しい限り。姉妹版の『世界史B用語集』とペアで揃えてはいかがでしょうか。(M)