ぷれす通信

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2014年1月号

デッドゾーン 薬事法の落とし穴(2)

薬事法関連で注意しなければならないものは、医薬品の分類以外にも、さまざまな表現があります。特に美容・健康関係の記事で出てくる表現です。

 「しわ・たるみがなくなる」「20代のような肌になる」「しみ・そばかすを防ぐ」「白い肌になる」「痛みがなくなる」「○○に効く」「脂肪燃焼させて痩せる」etc.

 ふだんよく目にしているような気がしますが、本当にそのような効果があるのか、断定してよいのか、読者になったつもりで注意を促す鉛筆を入れたほうがよいでしょう。しっかりした制作会社の場合は、あらかじめそのような表現を使わないようマニュアルで定めているところもあります。薬ではないのに薬効をうたえば違法ですし、クレームの発生を防ぐ意味もあります。

 注意したいNG表現には“一番表現”というものもあります。「日本一の」「世界一の」「最高の」「究極の」「完璧な」「~で一番」という類です。商業印刷物に多く見られる誇大表現ですが、一般の印刷物でも出てくることがあります。ただし本当に「日本一高い山」であればOKですから、まず疑って、怪しいようなら鉛筆で注意喚起をすべきでしょう。

 以上のような表現も、最終判断は制作会社が行うので、校正者が入朱することはせず、鉛筆出しでとどめてください。(K)

この一冊! 『日本語のレトリック―文章表現の技法』

この一冊! 『日本語のレトリック―文章表現の技法』

『日本語のレトリック―文章表現の技法』

瀬戸賢一 著

岩波ジュニア新書/209ページ

ISBN-10: 4005004180

ISBN-13: 978-4005004188

価格 819円(税別)


「レトリック」と聞いて、ぱっと意味がわかる人はいるでしょうか? 言葉は聞いたことがあってもどういうものなのか答えられなかったので辞書を引いてみました。

 ●レトリック【rhetoric】

  1 修辞法。また、修辞学。レトリケー。(デジタル大辞泉)

 ●しゅう‐じ〔シウ‐〕【修辞】

  言葉を美しく巧みに用いて効果的に表現すること。また、その技術。レトリック。(デジタル大辞泉)

 では、レトリックとは言葉を美しく巧みに用いるためだけの技術なのでしょうか――いいえ、そうではありません。

 文章の中にレトリックを使うことによって、より魅力的な表現が生まれますが、その「魅力は、美文や装飾に直結するのではなく、『より適切な表現』を求める」ものだと著者は言います。ならば、適切な表現とはいったいどのような表現なのでしょうか? この問いに対して著者は、「文脈をよく考慮して、伝えたい意味が過不足なく表されて」いる表現だと言います。

 ある文章を世に出すために、著者と編集者、そして校正者それぞれが職責を果たすことによってよりよい表現、より読者にわかりやすく、言いたいことが的確に伝わるための表現を作り上げていきます。そのためにも、文章を生み出す著者だけでなく、編集者や校正者も、表現手段としてのレトリックについて学び、知る必要があるでしょう。

 伝えたいことが誤解されないか、それは適切な表現になっているか――それを判断するためにも、私たちもレトリックの技法を知っておく意味は大きいと思います。

 私たちは日常、特にレトリックと意識せずに文章に触れていると思います。しかし、そうとは気づかず、レトリックという豊かな海の恵みを日々味わい、その恩恵に浴しているのです。言葉の豊かさや表現の可能性がレトリックによって支えられていることがよくわかる一冊です。(S)