ぷれす通信

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2013年2月号

デッドゾーン 思い込みに気をつけて

人間誰しもうろ覚えや勘違いをすることはありますが、本のタイトルなどを間違えて覚えていたり、ゲラにそのような記述を見つけたことはありませんか?

 興味深いことに、福井県立図書館のウェブサイトに掲載されている「覚え違いタイトル集」というものがあります。

 いくつか例を挙げてみましょう。

・『散歩する漱石』(『闊歩する漱石』)

・『まんじょうき』(『方丈記』)

・『100万回死んだねこ』(『100万回生きたねこ』)

・『最期の一休』(『最後の一球』)

・『あでらんすの鐘』(『あんでらすの鐘』)

・『キャッツー』(『キシャツー』)

・やなぎみさと(柳美里/ゆうみり)

・のみなみあさ(乃南アサ/のなみあさ)

 これらは、図書館の利用者がうろ覚えや勘違いをしたまま図書館に行き、司書の手を借りながら探した本の例です。校正の仕事でも、著者が曖昧な記憶で書いていたり、オペレーターが変換ミスをしたりして、同様のケースに出くわすことがあります。

 しかし我々も、赤入れや疑問出しの際に転記ミスをすることだってありますから、他人事だと笑ってはいられません。

 素読みをする際には思い込みですまさないように、よくよく注意しましょう。(M)

参考:福井県立図書館「覚え違いタイトル集」

 【これはすごい】福井県立図書館の「覚え違いタイトル集」が秀逸すぎる

この一冊!『日本語てにをはルール』

この一冊!『日本語てにをはルール』

『日本語てにをはルール』

日本語てにをはルール

石黒圭 編著

中経の文庫(2012/02)

文庫判/256ページ

ISBN 978-4-8061-4310-9

600 円(税込)


「てにをは」と聞いて何を連想しますか? 一般的には助詞・助動詞、あるいはその使い方を連想すると思います。本書では「てにをは」を「文法、さらには表現法そのものを示す言葉」とし、それら日本語を書くときの基本事項を「てにをはルール」と名づけています。

 本書のなかで、校正の仕事に特に役立つのは「第二章 センスが問われる『言葉選び』」です。

 さっそくですが、第二章で出題されている問題をご紹介しましょう。次の文のなかには1ヵ所ずつおかしな部分があります。どの部分でしょうか?

(1)新しい複合施設は、レストランや映画館などさまざまな施設を完備している。

(2)目抜き通りは平日もショッピングやグルメを目当てに集まる人々でにぎわう。

――どうでしょう、わかりましたか? 正解は、(1)は「完備している」が×、(2)は「グルメを目当てに」が×です。それぞれ解説すると、(1)の「完備する」は文字どおり「完全に備える」という意味なので、「さまざまな施設をすべて備えてある」、つまり、ありとあらゆる施設がそろっていることになってしまいます。

(2)は、「グルメ」は食通や美食家などの「人」を表す言葉が元になった外来語なので、「食通を目当てに」人が集まることになってしまいます。もっとも(2)については、「グルメ」も日本語として意味が変わり、「おいしい食べ物」というような意味で使用されることもあるので完全な誤りとは言えないかもしれない、としています。実際の仕事でも、このような微妙な意味合いの言葉に出くわして悩むことはありますよね。

 以上の他にも「うなぎ文」「こんにゃく文」についてや、歯科医が「医師」でないときはどんなときか、株主は「社員」か否かなどが丁寧に解説されています。あと、各章で出題されている問題が、簡単そうなのに正解できない! なかなか手強くて侮れません。オススメの一冊。(S)