2013年1月号
デッドゾーン 一画一画ていねいに
あけましておめでとうございます。新しい年を迎えて、皆さまいかがお過ごしでしょうか?
お正月といえば年賀状ですね。自宅のプリンタで印刷した人もいれば、一枚一枚手で書いた人もいるでしょう。
ペンで住所を書きながら思ったのですが、番地を漢数字で書くのは難しいですね。字間を適切にあけたり、筆で書くように横棒に微妙なカーブをつけたりと、ある程度メリハリをつけないと「一二」が「三」になったり、「六」が「‐一八」になったりと(縦書きを想像してください)、読み間違いが起きやすくなります。
ゲラに西暦を漢数字で書くこともありますね。字間・行間、トメやハネ、ハライの角度に心を配らなければ、いらぬ誤りを誘発してしまいます。
カタカナでも注意が必要です。「ス・ヌ・タ」「エ・コ・ユ・マ」「ア・マ」「シ・ツ」など、よく似た文字をきちんと書き分けなければなりません。各画の長さやハライの方向に気をつけて一画一画ていねいに心がける必要があるでしょう。
字形類似は、漢字に限らずひらがなにもカタカナにもありますよね。誰がゲラを見ても読み間違うことがないように、正確に書くことが大切です。
書道を習った人のようなきれいさでなくてもよいのです。著者や編集者、オペレーターが誤読しない字であればよいのです。字に自信がない人は、活字に似せて書く練習をしてみましょう。それだけでもはっきり読みやすい字になります。
仕事をしていて、校正的観点には気を配っていても、自分の書く字は気にも留めない人もいるのではないでしょうか。どんなにいい内容の仕事をしても、ゲラの字が乱雑で誤読を招くようでは、せっかくのスキルが台無しです。
新たな年を迎えて心機一転、自分の書く字に目を向けてみませんか。(M)
この一冊!『日本語お稽古帳』
『日本語お稽古帳』
日本語お稽古帳
日本語力向上委員会 著
毎日新聞社(2012/2)
160ページ/A5判
ISBN 978-4-620-32109-7
本書は、一般の人向けに書かれた校正形式の問題集です。
問題文に埋め込まれた誤りは、誤字・脱字、同音異義語、慣用句、敬語、事実関係等多岐にわたっています。問題は初級・中級・上級の3つに分かれており、初級は誤りが5箇所、中級は誤りが10箇所。上級は誤りは10箇所ですが表や地図などが入って難しさが増し、より実践的になっています。
いずれの問題も、我々プロが解いても十分手応えのある内容になっています。初級だからと高をくくるのは危険です。「控訴」と「上告」、「震度」と「マグニチュード」など、取り違えやすい言葉に引っかかるかもしれません。まめに辞書を引き、参考図書やネットでしっかり調べなければ解けないようになっています。
「本書の使い方」に、「言葉は『生き物』です。言葉に厳密な意味での正誤をつけるのは極めて困難」「『説明文では誤りでも、今どきの若者の会話文としてなら許される』など、著者(問題)の意図を文章からよく読み取って、正誤の判断をしてください」などと書いてあり、一般向けの書籍ではありますが、現場での考え方を押さえた内容になっています。
問題の合間に挟まれたコラムでも、実際の現場の様子や校正者の日常、どのような態度で仕事に臨んでいるのか等が書かれています。一つご紹介しましょう。急ぎの仕事の際に、例えば「海老沢勝二氏がNHKの第何代会長であるかというような、調べなければ分からない事実は、時間がない中でも慎重に資料にあたりますが、調べるまでもないNHKの正式名称『日本放送協会』をしっかり確認せず『日本放送教会』という誤りを見逃してしまう」ケース。よくありますよね、調べ物に気をとられて他所に目が届かないこと。急ぎの時ほど落ち着いて、くまなく注意を払いたいものです。
問題集ではありますが、問題を解かずに解答ページの赤字を見るだけでも勉強になります。脱力系のイラストも◎。書店で見かけたら迷わずレジへどうぞ。(S)